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医療機器物流とは、医療機器や医薬品に関する物流を指す言葉で、「メディカル物流」と呼ばれることもあります。人々の健康に直結する医療機器物流では、高度な品質管理や追跡管理が重要です。
この記事では、医療機器物流に関する法律や、医療機器物流ならではの品質管理のポイントなどについて詳しく解説します。
医療機器物流とは医療機器や医薬品を扱う物流のこと
医療機器物流とは医療機器や医薬品に関する物流のことで、医薬品物流やメディカル物流と呼ばれることもあります。一般的な物流に比べて、温度管理や湿度管理、商品の追跡などを厳密に行う必要があるのが特徴です。
医療機器は、人々の健康を守る重大な役割を持っています。物流時の管理が甘く、品質が変化するようなことがあってはなりません。また、商品によっては紛失リスクも非常に高くなります。さまざまなトラブルやリスクを回避するために、医療機器物流にはさまざまなルールが設けられています。
例えば、新型コロナウイルスのワクチンの保管は厳密な温度管理が必要とされ、その温度は-90~-60℃とかなりの低温です。このような温度管理は保管中だけではなく、物流時にも求められます。
ワクチンの温度管理に失敗し、廃棄になったというニュースは記憶に新しいものです。医療機器の品質を維持したまま必要な場所へ届け、使用するためには、常に細心の注意を払って物流網にのせなければいけません。こうした高度な技術と細心の注意が、人々の健康を支えています。
医療機器物流に関わる法律
医療機器物流に関わることを定める法律は薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性および安全性の確保等に関する法律)です。薬機法は、医薬品や医薬部外品、医療機器などの品質や安全性を確保するための法律で、医薬品などの製造、流通、広告などに関する幅広い規定が定められています。
医療機器を保管するための倉庫に関する規定や、「医療機器製造販売業」の許可が必要な作業内容の規定など、国が定めた医療機器物流に関連する決まりを確認し、遵守しましょう。
また、取り扱う医薬品や医療機器の種類によっては、毒物および劇物取締法や消防法など、そのほかの法律が関連してくる可能性もあります。取扱商材に関する知識はもちろん、法律についても専門的な知識が必須だといえるでしょう。法律を守り、安全性の高い物流を心掛けてください。
医薬品物流で扱う3つの商材
医薬品物流で取り扱うのは、主に3つの商材です。それぞれの内容について詳しく見ていきましょう。
医療機器
医療機器とは、人間や動物に対して、医療目的で利用する機器や器具、装置などを指します。医療機器の例としては、「手術用不織布」「X線撮影装置」「注射針」「人工呼吸器」「人工骨」「ペースメーカー」「中心静脈カテーテル」などがあります。
薬機法上の定義は、下記のとおりです。
「医療機器」とは、人もしくは動物の疾病の診断、治療もしくは予防に使用されること、または人もしくは動物の身体の構造もしくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等(再生医療等製品を除く。)であって、政令で定めるものをいう。
出典:厚生労働省「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律 第二条第4項」
なお、薬機法では、上記のほかに「高度管理医療機器」「管理医療機器」「一般医療機器」「特定保守管理医療機器」という項目を設けています。これらは、副作用や機能の障害の程度に応じて定められており、影響の大きさに応じた管理が求められます。
医療機器の物流では、ロット番号やシリアル番号、有効期限などについて細かい管理が必要です。有効期限が切れた製品が流通しないようにするとともに、個別の製品について所在を管理し、追跡できるようにしておかなければいけません。
医薬品
医薬品とは、病院などで患者に処方される薬や、薬局やドラッグストアで市販されている風邪薬などのことです。医薬品のうち、医師や歯科医師が使用したり処方したりするものを「医療用医薬品」、薬局などで購入できるものを「一般用医薬品」と呼びます。薬機法では、下記のように定義されています。
一 日本薬局方に収められている物
二 人または動物の疾病の診断、治療または予防に使用されることが目的とされている物であって、機械器具等(機械器具、歯科材料、医療用品、衛生用品並びにプログラム(電子計算機に対する指令であって、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。以下同じ。)およびこれを記録した記録媒体をいう。以下同じ。)でないもの(医薬部外品および再生医療等製品を除く。)
三 人または動物の身体の構造または機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であって、機械器具等でないもの(医薬部外品、化粧品および再生医療等製品を除く。)
出典:厚生労働省「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律 第二条」
医薬品の取り扱いには多くの規定がありますが、中でも温度管理は重要です。医薬品を扱う倉庫には、品質を維持するための空調や厳密な温度管理が求められます。新たに医薬品を保管する倉庫を建設するのであれば、相応の設備投資が必要になるでしょう。
治験薬
治験薬とは、まだ国の承認を受けていない新薬のことです。一定の効果が認められ、承認を受けている医薬品とは扱いが異なる点に注意が必要です。
医薬品には管理のためのバーコードがつけられていますが、治験薬にはまだバーコードがありません。バーコード管理ができないことから、在庫管理や物流管理が行いにくいという特徴があります。管理方法について十分検討することが必要です。
一方で、治験薬も医薬品ですから温度や湿度を管理することが求められます。治験薬ごとの特性に合わせた環境を維持できる倉庫でなければ扱うことができません。
医療機器や医薬品物流の特徴
医療機器や医薬品の物流には、一般的な物流と異なる特徴があります。医療機器物流ならではの特徴を4つご紹介します。
医療機器製造販売業の許可が必要
医療機器物流を行う事業者は、医療機器製造販売業許可を取得する必要があります。製造販売業というと、医療機器や医薬品の製造を行う事業者に求められる許可のように見えますが、薬機法上の製造販売は、製造とは異なる意味で使用されています。
「製造」とは、材料などをもとに医療機器や医薬品を作ることです。一方「製造販売」とは、自社で作ったり輸入したりした医療機器や医薬品について、販売や貸与する場合に該当します。つまり、製造販売業の許可を取っていたとしても、医薬品を製造できるわけではありません。あくまでも、販売などに関する許可ということになります。
医療機器製造販売業許可には、第一種、第二種、第三種、体外診断用の4種類があり、取り扱う商品によって必要な許可の種類が変わります。
なお、医療機器の組み立てを倉庫内で行いたいといった場合は「製造」に該当することから、医療機器の製造業の登録を別途行わなければいけません。
また、医薬品の製造販売業許可については、別途、医薬品製造販売業許可が必要です。医薬品製造販売業許可にも第一種、第二種、医薬部外品、化粧品という4つの種類があります。
そのほか、医薬部外品製造業や動物用医薬品製造業など、取り扱う商品によってさまざまな許可が必要です。自社の業務がどのカテゴリーに該当しているのかを確認した上で、必要な許可を取得してください。
医療関連の法律は非常に複雑であるため、事情に精通した専門家の助言を得るか、必要な許可をあらかじめ得ている外部の専門事業者に委託するのが確実です。
国による保管条件を満たした品質管理が求められている
厚生労働省では、医薬品の品質を保つためのルールとして「医薬品の適正流通(GDP)ガイドライン」を制定しています。ガイドラインを守ることで、医薬品の仕入れや保管、供給といった流通経路を適切に管理するとともに、医薬品の安全性を保つことができます。
また、ガイドラインには偽造医薬品の流入を防ぐための規定も含まれています。安心して医薬品を利用できる社会を守るために、ガイドラインを遵守しましょう。
出典:厚生労働省「医薬品の適正流通(GDP)ガイドライン」(2018年12月)
保管中、輸送中の繊細な温度管理
医療機器物流では倉庫の保管中や輸送中の温度管理が重要です。製品によって適切な温度帯が異なるため、特性に合った管理を行わなければいけません。規定の温度を維持できる機能を有した冷蔵装置や冷凍装置のあるトラック、倉庫が必要となります。
「医薬品の適正流通(GDP)ガイドライン」で定められている医薬品の温度管理の分類は、下記のとおりです。
<医薬品の温度管理の分類>
- 標準温度:20℃
- 常温:15~25℃
- 室温:1~30℃
- 微温:30~40℃
- 冷所:1~15℃
そのほか、氷点下で保管が必要な製品についても、適切な温度の範囲内に収めるための技術が必要です。
トレーサビリティの徹底
トレーサビリティとは「追跡可能性」のこと。医療機器や医薬品に関しては、該当の製品が、いつ、どこで、誰によって作られ、どのように利用者に渡ったのかといった追跡が必要です。
例えば、販売後の医薬品に問題があると判明した場合、追跡ができなければ利用者に必要な情報を提供できません。また、海外からの輸入医薬品の増加に伴い、偽造医薬品が流通するリスクも増加しています。トレーサビリティは、人々の健康を守るために必要不可欠だといえるでしょう。
医薬品、医療機器の物流に困ったときはプラス ロジスティクスグループへお問い合わせください
医薬品や医療機器の物流には、豊富な専門知識が必要です。自社で対応するのは困難な場合が多いでしょう。ただし、物流専門会社に委託する場合も、医薬品や医療機器の取り扱い実績が豊富で、専門性の高い対応ができる業者を選ぶことが大切です。
プラス ロジスティクスグループであるプラス カーゴサービスでは、専門性の高いメディカル配送を提供。献血や検体、医薬品などの集配業務を多く手掛けています。医療機器物流についてのお悩みや疑問点は、プラス ロジスティクスグループまでお気軽にご相談ください。
医療機器物流に関するよくある質問
- Q1_医療機器物流とは?
- 医療機器物流とは、医療機器や関連医薬品を適切に取り扱い、保管し、配送する業務を指します。「メディカル物流」とも言われているこの分野では、製品が厳しい温度や湿度条件下で保持されることが求められ、医療機器の機能と安全性を維持するための特別な設備や技術が使用されています。
- Q2_医薬品物流で扱う商材とは?
- 医薬品物流で取り扱う商材は、主に「医療機器」、「医薬品」、「治験薬」の3つです。医療機器とは、人間や動物に対して、医療目的で利用する機器や器具、装置などを指します。医薬品とは、病院などで患者に処方される薬や、薬局やドラッグストアで市販されている風邪薬などのことです。治験薬とは、まだ国の承認を受けていない新薬のことです。
- Q3_医療機器物流に関わる法律とは?
- 医療機器物流に関わることを定める法律は薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性および安全性の確保等に関する法律)です。薬機法は、医薬品や医薬部外品、医療機器などの品質や安全性を確保するための法律で、医薬品などの製造、流通、広告などに関する幅広い規定が定められています。