【よくわかる】物流DXとは?業界の課題と導入目的、DX化のポイント

この記事は、 12 分で読めます。

物流DXとは、物流に関するDX(デジタルトランスフォーメーション)のことです。物流DXは国土交通省も推進しており、取り組む企業も増えています。物流業界の業務をデジタル化し、DXを進めていくことで、業界が抱える課題の解決にもつながるでしょう。

この記事では、物流DXの基本と、物流業界が抱える課題について解説します。

 

 

物流DXとは、物流業界におけるデジタル技術改革のこと

物流DXとは、従来の物流事業の在り方をデジタル技術の導入で変えていくことです。国土交通省では、物流DXを「機械化・デジタル化を通じて物流のこれまでの在り方を変革すること」と定義しています。

 

単純に従来の業務をデジタルに置き換えるのではなく、デジタル技術によって物流業務の在り方そのものを見直し、変容させることが物流DXだといえるでしょう。

物流の現場では、現在でも商品の保管や荷役、流通加工、配送など、さまざまなプロセスでデジタル技術が活用されていますが、今後もさらにDXが進むものと考えられています。

 

 

物流DX導入が求められる背景とは?

物流DXの導入が求められる背景にあるのは、物流業界が抱えるいくつかの課題です。少子高齢化や消費者ニーズの変化といった時代の流れに対応していくためには、物流DXによるビジネスモデルの抜本的な改革が役立ちます。ここでは、物流DXによる解決が期待されている5つの課題をご紹介します。

 

人員不足

少子高齢化が進む中で、物流業界の人手不足が進んでいます。特に、物流業界に必須のトラックドライバーの不足は顕著で「トラックドライバーが不足している」と感じている企業の割合は50%超です。さらに、近年ではドライバーの数は減少を続けており、今後も人手不足が加速していくと考えられています。

加えて、倉庫内で働く作業スタッフの人員も不足傾向にあります。どの事業者においても採用強化が必要ですが、少子高齢化が進んでいく中で十分な人員を確保するのは困難でしょう。

出典:経済産業省・国土交通省・農林水産省「物流を取り巻く現状と課題」(2024年2月)

 

 

ECの普及による小口配送の増加、トラック積載効率の低下

ECサイトが普及したことで、個人向けの小口配送需要が高まっています。ECサイトはコロナ禍を背景に急速に拡大し、2022年度の宅配便取扱実績は約50億個となり、5年間で23.1%増加しました。一方で、小口配送は配送業者にとっては配送の効率化を妨げる要因であり、配送の効率を高める方法を検討する必要があります。

また、多くの荷物をまとめて特定の場所に運ぶのに比べ、多品種小ロットの小口配送は、トラックの積載率低下を招くともいわれています。実際に、2010年以降、トラックの積載率は40%以下の低水準が継続中です。

出典:経済産業省・国土交通省・農林水産省「物流を取り巻く現状と課題」(2024年2月)

 

商品管理の負担増大・複雑化

物流需要の増加を要因に、全国的に倉庫の空きスペースが不足する傾向にあります。特に、大型マルチテナント型物流施設の新規需要が高まっており、首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率は9.7%、中部圏では14.6%、近畿圏では3.7%、福岡圏では3.2%と、低い水準で推移しています。

こうした中で、倉庫に求められる機能も高くなっているといえるでしょう。ECサイト需要の高まりによる小ロット注文への対応や、空きスペース不足を解消できる省スペースな保管方法、効率の良い出入庫などが求められており、従来の管理方法では対応が難しい状況です。

出典:CBRE「賃貸倉庫・物流施設の市場動向」(2024年8月)

 

長時間労働・低賃金

トラックドライバーは、労働時間が長いにもかかわらず低賃金になりがちな職業です。全産業の平均が489万円であるのに対し、トラックドライバーの年収は大型トラックドライバーが463万円、中小型トラックドライバーが431万円で、5~10%程度少なくなっています。一方で、労働時間は大型トラックが年間2,544時間、中小型トラックが年間2,484時間で、全産業の2,112時間に比べて約2割多い状況です。

他社との運賃競争やニーズの多様化、人手不足といった問題がトラックドライバーの長時間・低賃金労働を引き起こし、その結果、若年層の労働力確保を妨げるという悪循環に陥っていると考えられます。

 

燃料などのコスト高騰

物流業界において、ガソリン価格の変動は大きなリスクです。近年ではさまざまなものや燃料の価格が全体に上昇しているため、ガソリンだけでなく、トラックやタイヤ、倉庫の電力などにかかるコストも増大傾向にあります。

かといって、軽々に配送料金に転嫁すると、顧客離れが起こる可能性があるでしょう。コストの高騰に対応できるだけの業務効率化や、省エネが求められます。

 

 

 

物流業務をDXする目的

従来の物流業務の在り方を見直してDXを推進する目的は、物流業界が抱える課題の解決にあります。物流DXを行うことで業務効率アップや品質の向上が実現すれば、これまでよりも少ないコスト、少ない人材で、クオリティの高いサービスを提供できるはずです。

物流業界でデジタル技術を活用していくことで得られるメリットには、下記のようなものがあります。

 

倉庫の空きスペースの最適化

WMS(倉庫管理システム)を活用することで、倉庫の空きスペースを効率良く活用できます。WMSは、入庫、在庫管理、棚卸、帳票発行、出荷といった倉庫内の業務全般を管理できるシステムのこと。WMSを活用すれば、倉庫内のどこに、何が、何個あるのかを正確かつリアルタイムに管理できるため、余剰在庫や不良在庫を防ぐことができます。

 

WMSについてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。

WMS(倉庫管理システム)とは?導入メリットや成果事例、選び方を解説

 

商品管理の自動化・機械化

WMSのようなシステムを活用することで、商品管理を自動化することができます。手書きで棚卸をしたり、入出荷した商品のチェックをしたりするのは、時間がかかる上に人的なミスの元です。商品に取り付けたタグによって情報を管理する「RFID」などを導入することで、商品情報や在庫情報をスピーディーに登録、管理できます。

 

自動化についてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。

物流倉庫の自動化とは?ピッキングシステムなど効率化の具体例を紹介

 

コスト削減

物流業務のデジタル化は、コスト削減にもつながります。例えば、出荷伝票を見ながらスタッフが倉庫内を歩き回って商品をピッキングするには、多くの時間と労力が必要です。この業務の一部にデジタル機器を導入し、出荷伝票をデジタル機器で読み込んで必要な商品が保管されている棚の表示器が光るようにすれば、ピッキングにかかる手間を削減できるでしょう。必要な商品を自動で運搬できるシステムを活用すれば、さらに人手を削減、コストカットすることも可能です。

同じように、棚卸や入出荷、トラック配送など、物流におけるさまざまなステップで、デジタル化によるコストを削減することができます。ただし、デジタル化には初期コストがかかります。闇雲に導入するのではなく、自社の課題解決につながる適切なシステムを選定し、将来のメリットにつなげることが大切です。

 

人的ミスの削減

物流業界ではシステム化を進めることで、業務の正確性を上げられます。

人が作業をする以上、ヒューマンエラーを完全に避けることはできません。特に、人手不足で忙しい現場では、判断力の低下やミスが起こりやすくなってしまうでしょう。

「商品の確認を目視ではなくラベルでシステム的に行う」といったデジタル機器を用いた工夫をすれば、人的ミスが起こるリスクを低減できます。正確性の高いサービス提供は、ユーザーの満足度向上にもつながります。加えて、作業の自動化が進めば、従業員の負担軽減にも効果的です。

 

物流マネジメントの体制づくり

コストの増大や人手不足、ニーズの多様化に対応していくためには、物流マネジメントの体制を整えることが大切です。

国内外の最先端技術を把握し、自社に必要な最新の物流システムを適切な形で取り入れていくことで、時代に即した新たなビジネスモデルを作り上げていくことができます。新しい物流の体制づくりに対応できる人材が社内にいない場合は、外部へのアウトソーシングも可能です。従来の社内でのやり方に固執するのではなく、デジタル技術を取り入れ、新たな時代に対応していきましょう。

 

 

物流DXで改善できること

物流DXは前述のとおり、物流業界のさまざまな課題を解決し、業務の効率化やコスト削減を実現する革新的な手段です。ここからは、物流DXによって改善できることを紹介します。

 

業務のデジタル化

物流業界では、長年にわたり紙ベースの業務や人手による管理が主流でした。しかし、物流DXにより業務のデジタル化が進み、作業効率の向上が期待されています。

主な物流業界におけるデジタル化は、ペーパーレス化・手続きのデジタル化です。受発注管理や請求処理、運送指示などをデジタル化することで、業務の迅速化とミスの削減を実現できるでしょう。

また、トラック予約システムを導入すれば、荷待ち時間の短縮や積載率の向上により、物流拠点の効率化が可能になります。AIによる需要予測や配送計画の最適化すれば、リソースの無駄を削減でき、生産性の高いオペレーションが実現します。

業務のデジタル化は、物流業務のスピードアップだけでなく、コスト削減や業務負担の軽減にもつながるといえるかもしれません。

 

在庫管理効率化や倉庫内自動化

物流DXの導入により、倉庫業務の効率化や自動化を進めることが可能です。特に、リアルタイムでの在庫管理やロボットを活用した倉庫作業が注目されています。

IoT技術を活用し、倉庫内の在庫をリアルタイムで可視化すれば、過剰在庫や欠品を防ぎ、最適な在庫管理が可能になります。また、物流ロボットやAGV(無人搬送車)の導入により、入出庫作業やピッキング作業が自動化でき、作業効率の向上と人手不足の解消につながるでしょう。倉庫業務の省人化と業務スピードの向上を実現し、物流の全体最適が可能になります。

 

配送ルートの適正化

従来の配送ルートの選定は、ドライバーの経験や勘に頼る部分が多く、非効率なルートが発生することも少なくありません。しかし、物流DXの導入により、AIやデータ分析を活用した最適な配送ルートの設定が可能になります。

AIであれば、リアルタイムの交通情報や配送条件を考慮し、最も効率的で最短の配送ルートを自動算出できます。最適なルート設計ができれば、無駄な走行距離を削減し、燃料費・人件費などのコストカットも可能です。また、配送時間のばらつきも減らせるため、顧客満足度の向上につながり、納品時間の正確化も期待できるでしょう。

 

配送自動化

物流DXの進化により、配送の自動化技術も大きく発展しています。物流業界全体の人手不足の深刻化に対応するため、ドローンや自動運転技術を活用した配送システムが注目されています。主な配送自動化技術は、下記のとおりです。

<主な配送自動化の技術>

 

  • ドローン配送:都市部や離島などのエリアでの迅速な配送手段。
  • 自動配送ロボット:ラストワンマイル配送の効率化が目的。
  • 自動運航船:海上輸送の無人化を実現。長距離輸送のコスト削減が可能。
  • 自動運転トラック:長距離輸送や幹線輸送の自動化により、ドライバー不足を解消。

 

デジタルマーケティング

物流DXの導入により、物流業務だけでなくマーケティングの領域にも変革が起こっています。データの蓄積と分析を活用することで、物流企業もデジタルマーケティングの強化が可能です。

例えば、物流データを分析し、より効率的なサービス提供や需要予測が可能となり、データドリブンなビジネス戦略を検討できます。また、顧客ごとの取引履歴や行動データを活用し、パーソナライズされたマーケティングで最適な提案を行うことで、サービスの付加価値を向上させることもできるでしょう。

物流企業がデジタルマーケティングを活用することで、新規顧客の獲得や既存顧客との関係強化が期待されます。

 

 

物流DXに取り組む際のポイント

物流DXを成功させるには、単に最新技術を導入するだけではなく、現場の課題を正しく理解し、計画的に進めることが重要です。ここでは、物流DXを推進する際に押さえておくべきポイントを解説します。

 

物流の現場の声を活かしながら進める

物流DXを推進する際、経営層の判断だけでなく、現場スタッフの意見を反映させることが成功のカギとなります。実際の業務に即したシステム導入すれば、現場での運用がスムーズになり、定着しやすくなるでしょう。

現場の意見を尊重することで、DX導入に対する理解と協力を得やすいことが大きなメリットです。現場スタッフの抵抗感を軽減し、システムの仕様を現場の業務フローに合わせることで、使いにくさや混乱も防止できます。

DXを進める際は、現場との定期的な意見交換を行い、実際の業務で活用できる仕組みを構築することが重要です。

 

DXに詳しい人材を確保する

物流DXを推進するには、単なるITスキルだけでなく、業務プロセスを理解し、変革を推進できる人材が不可欠です。

DX人材に求められるスキルとして、クラウドシステムやAI、IoTなど、最新技術の知識を持っていることが挙げられます。また、現場業務を理解し、最適なシステム設計ができることや、部署を横断した調整力を持ち、DX推進を円滑に進められるマネジメント能力も求められます。

専門の人材を採用することも有効ですが、社内でのリスキリングにより、DXを推進できる人材を育成することも重要です。研修やOJTを活用しながら、物流業務とITの両方に精通した人材を確保していきましょう。

 

DXは計画的に進めることが大切

物流DXは、一度にすべての業務をデジタル化するのではなく、段階的に進めることが成功のポイントです。現状の業務を継続しながら、無理のないスケジュールでDXを推進しましょう。

まずは、現状の課題を整理し、どの業務を優先的にDXすべきかを明確にします。小規模な範囲でDXを導入し、効果を検証しながら本格導入を進めることが重要です。短期・中期・長期の目標を設定し、継続的な改善の積み重ねを繰り返せば、無理なくDXを実現し、持続可能な物流体制を構築できます。

 

 

物流DXに悩んだらプラス ロジスティクスグループにご相談ください

物流DXの推進には、物流とDX両方の知識を持ったプロの視点が必要です。物流DXが、多くの課題解決やメリットにつながるとわかっていても、何から始めればいいかわからないという企業は少なくありません。実際に、業務を止めずに、スムーズに従来のやり方を変革するのは非常に困難です。

プラス ロジスティクスグループは、それぞれのお客様に最適な物流の在り方をマネジメントする会社です。物流DXの進め方にお悩みの方や、そもそも何をすればDXになるのかわからないという方は、ぜひご相談ください。貴社の課題に寄り添い、スムーズな物流DXを実現いたします。

 

プラス ロジスティクスへのお問い合わせはこちらから

 

 

物流DXに関するよくある質問

Q1_物流DXとは?
物流DXとは、従来の物流事業の在り方をデジタル技術の導入で変えていくことです。国土交通省では、物流DXを「機械化・デジタル化を通じて物流のこれまでの在り方を変革すること」と定義しています。デジタル技術によって物流業務の在り方そのものを見直し、変容させることが物流DXだといえるでしょう。
Q2_物流DX導入が求められる背景は?
物流DXの導入が求められる背景にあるのは、人材不足やトラック積載効率の低下など、物流業界が抱えるいくつかの課題です。少子高齢化や消費者ニーズの変化といった時代の流れに対応していくためには、物流DXによるビジネスモデルの抜本的な改革が役立ちます。
Q3_物流の業務をデジタル化する目的は?
従来の物流業務の在り方を見直してデジタル化を推進する目的は、物流業界が抱える課題の解決にあります。物流のデジタル化を行うことで業務効率アップや品質の向上が実現すれば、これまでよりも少ないコスト、少ない人材で、クオリティの高いサービスを提供できるはずです。

RELATED