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在庫とは企業が倉庫に抱える販売前の商品や資材のことです。在庫を多く抱えることは、キャッシュフローの悪化を招くことにつながります。しかし、在庫を減らしすぎると、必要なときに商品を販売できず、欠品が生じるリスクが高まるでしょう。自社にとっての最適な在庫量を把握し、コントロールしていくことはとても重要です。
この記事では、企業が在庫を持つメリットと在庫過多のリスクのほか、適正在庫を維持するためのポイントについて解説します。在庫リスクを減らし、利益の最大化を目指してください。
在庫リスクとは過剰在庫を持つことで生じるコストや価値低下などの悪影響のこと
在庫リスクとは、「在庫を持ちすぎることで生じるリスク」のことです。在庫を持ちすぎると、商品や資材を保管するためのコストの増加や、商品価値の低下につながります。過剰在庫は処分するにもコストがかかり、安く売り切ろうとすれば収益が悪化してしまうこともあります。
反面、在庫をある程度持つことは、顧客に安定的に商品を供給するために不可欠です。多すぎず、少なすぎない適切な量の在庫をキープすることが求められます。
在庫管理についてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。
在庫を持つことのメリット
そもそも、企業が在庫を持つメリットとしては、仕入れコストの削減や売上機会損失の回避などが挙げられます。必要以上の在庫を持つことはリスクにつながりますが、最低限の在庫をキープせずにビジネスを展開するのも問題です。ここでは、企業が適正な在庫を持つことのメリットを解説します。
仕入れコストの削減
仕入れコストの削減とは、材料や部品、商材を大量に仕入れることで、商品1つあたりの単価が下がることを指します。同じ商品を同じ値段で販売していても、仕入れコストを下げられれば、その分利益率が上がりますから、事業の効率化が可能です。
例えば、材料費が110円、売値が160円の商品で1万円の利益を上げようとする場合、200個の商品を売る必要があります。実際に売れた数が180個なら、あと20個余計に売るための努力をしなければいけません。しかし、営業活動や宣伝にもお金がかかりますし、確実な成果が出るとは限りません。
一方、材料費をまとめて仕入れることによって100円に下げられれば、販売個数が180個でも1万円を超える利益を出せます。仕入れコストの削減は、利益を上げるために効果的な方法です。
売上機会損失の回避
市場のニーズに応えられるだけの在庫量を確保しておくことで、注文が入った際に迅速な出荷が可能です。即時納品ができるため、顧客満足度が高まり、次の受注につながりやすくなります。
また、急に大口の注文が入った際や、市場のニーズが高まった際も、在庫数に余裕があれば欠品が起こりにくく、大きな売上につながる機会を逃さず、収益を得ることが可能です。
そのほか、万が一不良品があった際もスピーディーに交換できますから、顧客の不満軽減に役立ちます。
在庫を持つデメリットとリスク
前述のとおり、事業を営む上で必要以上の在庫を持つことはリスクになります。欠品リスクをおそれるあまり、在庫が過剰になってしまわないよう、注意しましょう。在庫を持ちすぎることによるデメリットやリスクは下記のとおりです。
在庫にかかる管理コストの増加
在庫を多く持てば、それだけ管理コストも増加します。商品在庫を持つということは、それだけ倉庫のスペースを埋めるということです。倉庫を借りるには家賃がかかりますし、光熱費も生じます。
もちろん、倉庫に空きスペースがあるのであれば、そこに荷物を置くか置かないかで家賃や光熱費が変わることはありません。しかし、「過剰な在庫保管をやめればもっと狭い倉庫でも事足りる」という場合は、やはり無駄なコストが生じているといえます。
また、倉庫に保管する商品の数が増えれば、それだけ棚卸や商品の品質保持などにかかる時間も増加します。商品数が増えることで倉庫内が狭くなり、作業効率が落ちたり、ピッキングに時間がかかって人件費がかさんだりといった問題が起こる可能性もあることも知っておいてください。
商品価値、品質の劣化
在庫を長期間保管していると、経年劣化による品質の低下や、流行の移り変わりによる市場ニーズの変化が起こることもデメリットです。
使用期限や賞味期限などのある商品はもちろんですが、明確な期限のない商品も、経年によって外装が変色したり、傷んだりするリスクがあります。また、どれほど一般的だと思われていた商品も、時代が変われば需要がなくなっていくことも考えられます。
商品を多く持っていれば、それだけ長期保有による問題が起こるリスクが高まることは否めません。システム化されていない倉庫で人力の管理を行っている場合、倉庫内で行方不明になった在庫が長年保管されっぱなしになってしまうといったこともありえるのです。
経年劣化によって品質が低下した商品や市場ニーズが落ちた商品は、価格を下げて売り切るか、廃棄する必要があります。いつまでも倉庫に保管しておいても管理コストがかさむだけですから、早急に処分を検討しなければいけません。
しかし、価格を下げて売れば、商品価値がいっそう下がってしまいます。その上、必ず売れるとは限りません。値下げをしても売れない場合は、廃棄することになりますが、別途廃棄コストが生じます。
キャッシュフローの悪化
在庫を多く抱えることは、キャッシュフローの悪化を招きます。在庫は企業が保有する資産のひとつですが、売れなければ現金化することはできません。
100万円分の資産が全額現金であれば、状況に合わせて流動的に使い道を選ぶことが可能です。しかし、100万円分の在庫では、商品が売れなければ何に使うこともできません。
例えば、取引先から50万円の請求が来たときに、100万円分の在庫があったとしても、現金がなければ支払いができず、不渡りを出してしまうことになります。
在庫を多く抱えるということは、その分現金を支出して材料などの仕入れを行っているのだということを意識しておく必要があります。
かかる税金が増加する
在庫は、販売か廃棄をしないと経費として計上できません。ある年に、1個1万円で100個の商品を仕入れたケースを例に解説します。この商品を2万5,000円で販売して、30個売れ、70個が残ったとしましょう。この年の仕入れに使った金額は、1万円×100個=100万円で、売上は2万5,000円×30個=75万円です。実質的には、25万円の赤字ということになります。
しかし、仕入れのうち、経費として計上できるのは、実際に売れた30個分だけです。70個の在庫は手元にあるため、将来利益を生む資産として扱われます。そのため、実際には利益が出ていないにもかかわらず、売上の75万円から30個分の仕入れにかかった30万円を引いた45万円が利益とみなされ、税金を納めなければいけなくなります。
もっとも、いずれ商品が売れれば、その年の経費として計上ができますし、廃棄すれば商品廃棄損としての計上が可能です。しかし、過剰仕入れを行ってしまうと、その年の税金がかさむ可能性があるので注意してください。
在庫リスクを削減し、適正在庫を維持するポイント
在庫リスクを削減し、適正在庫を維持するためのポイントは下記のとおりです。4つのポイントを意識して、欠品と過剰在庫を防いでください。
過剰在庫を把握する
まずは、倉庫内のどこに、どの商品が、いくつあるのかを正確に把握する必要があります。帳簿上の在庫と実在庫に差がないかどうか、倉庫内の在庫の棚卸を正確にすることが求められます。
適正在庫をキープするためには、在庫管理が必須です。帳簿上はあるはずなのに見つからない在庫は、管理状況が適切ではない状態で長期間放置されてしまうリスクが高くなります。また、売上が在庫に反映されていないといった問題があると、欠品を招きます。
在庫数を確認するとともに、実数と帳簿上の数に相違があった場合は、管理方法を見直すことが必要です。
在庫管理ルールやフローを改善する
過剰在庫が出てしまうのは、社内のルールやフローも原因のひとつかもしれません。
例えば、発注をそれぞれの地域の営業担当者に任せていた場合、複数の人が「少し余裕を持って発注しよう」と考えると、結果として過剰発注に陥る可能性があります。また、発注担当者が一人で発注を行っていたとしても、担当者のその時々の気分に応じて在庫数が変動してしまうかもしれません。
「どのような状態になったら発注するか」を、企業の中のルールとして設定することが必要です。このルールづくりも、担当者が勝手に決めるのではなく、在庫ごとの過去の売上実績や倉庫内の面積、大量仕入れによるコストの削減効果と管理コストの比較など、複数のデータをもとに厳密に設定してください。季節などによって需要が変化する在庫については、季節ごとの在庫数を別途定める必要があるかもしれません。
在庫管理において、過剰在庫や欠品を起こさないためのルールの整備は必須です。発注を誰がいつ行うのかと併せて設定することをおすすめします。
販売データによる需要予測にもとづく発注を行う
発注は、担当者の勘や経験で行うのではなく、過去の実績をもとにした需要予測と社内ルールに従って行う必要があります。
ただし、商品の需要は年々変化します。過去に作った需要予測が今後もあてはまるとは限りません。特にインターネットが発展した昨今では、SNSの影響などにより、突然顧客のニーズが爆発的に高まるといった現象が起こることもあります。
リアルタイムで販売データを蓄積し、通常と異なる動きがあった場合や、需要に変化が見られた場合は、即座に要因を特定し、発注数を変えるかどうかの検討を行わなければいけません。
需要が増えたからといって大量発注をすると、過剰在庫につながる可能性もあります。過去の状況をもとに、要因に応じてどの程度需要が続くのかといったことを随時判断するようにしてください。
在庫管理システムを導入する
リアルタイムで在庫管理を行い、適正在庫をキープし続けるためには、在庫管理システムの導入が効果的です。
在庫管理システムを導入すれば、現在の在庫数の把握と需要予測を正確に行えます。受注状況に応じて自動で在庫数の計測や需要予測の算出ができるため、推移のグラフを見ながら頭を悩ませる必要がなくなります。ただし、システム導入をするには、これまでの業務フローの見直しと、一定の導入コストが必要です。
在庫リスクを回避するには物流業務を専門企業にアウトソーシングするのもおすすめ
在庫リスクは、多くの業界に共通の課題です。適正在庫をキープし、在庫リスクを回避するために、在庫管理の属人化を見直し、社内ルールを設定しましょう。
とはいえ、在庫管理は専門性が高く、人員リソースも多く必要です。物流業務の効率化を目指す方や、システム化を進めたいが何から始めれば良いかわからないという方は、物流業務全体を専門企業にアウトソーシングするという方法も検討してみてください。在庫管理をアウトソーシングすることで、社内のリソースを本来の業務に集中できるため、業務効率化にも役立ちます。
プラス ロジスティクスグループでは、物流専門企業として、プロならではの解析とシステムを活用した適正な在庫管理を行っています。在庫管理に関するお悩みや疑問をお持ちの方は、お気軽にお問い合わせください。
在庫リスクに関するよくある質問
- Q1_在庫リスクとは?
- 在庫リスクとは、「在庫を持ちすぎることで生じるリスク」のことです。在庫を持ちすぎると、商品や資材を保管するためのコストの増加や、商品価値の低下につながります。過剰在庫は処分するにもコストがかかり、安く売り切ろうとすれば収益が悪化してしまうこともあります。
- Q2_在庫を持つデメリットとリスクとは?
- 在庫を持つデメリットとリスクには以下の点があります。まず、過剰在庫による管理コストが増加し、倉庫スペースや人件費がかさみます。次に、在庫の長期保管で商品価値や品質が劣化し、売れ残りや廃棄コストが発生します。また、在庫が多いとキャッシュフローが悪化し、現金化が困難になります。さらに、在庫が多いと税金負担が増加し、利益が出ていないにもかかわらず税金を納める必要が生じます。
- Q3_在庫リスクを削減し、適正在庫を維持するポイントとは?
- 在庫リスクを削減し適正在庫を維持するポイントは、まず過剰在庫の正確な把握です。次に、在庫管理ルールやフローを改善し、発注基準を明確に設定します。また、販売データに基づく需要予測で発注を行い、リアルタイムで需要変動に対応します。最後に、在庫管理システムを導入し、正確な在庫数の把握と需要予測を自動化することが効果的です。