安全在庫とは?安全係数を用いた計算式、適正在庫との違いを解説

この記事は、 8 分で読めます。

安全在庫とは、物流倉庫などで欠品を防ぐために最低限確保しておくべき在庫数のことです。商品の需要には波があることから、完全に欠品を防ぐのは困難でしょう。しかし、安全在庫をキープしておくことで、ある程度の欠品回避が可能です。

この記事では、適正在庫との違いや安全在庫の計算方法のほか、安全在庫をキープした在庫管理を行う際のポイントなどについてわかりやすく解説します。

 

 

安全在庫とは欠品を防ぐために確保しておくべき最低限の在庫量のこと

安全在庫とは、欠品を防ぐために確保しておくべき在庫量のことです。商品の発注リードタイムや過去の需要のばらつきなどから算出できます。

商品の需要は、季節や流行などに応じて変化するもの。需要の増加に対応できるだけの在庫を確保していないと欠品が起こり、販売機会を失います。一方で、需要の増加に備えるため在庫を抱えすぎると、商品の劣化や保管スペースのコスト増といった問題が起こるでしょう。

 

こうした問題を解決するために、必要最低限の在庫を示す安全在庫の考え方が役立ちます。なお、JIS規格では安全在庫は「需要変動または補充期間の不確実性を吸収するために必要とされる在庫」と定義されています。

 

 

安全在庫の計算方法

ある商品の安全在庫は、計算式を用いることで求めることができます。安全在庫を算出する計算式は、下記のとおりです。

 

<安全在庫の計算式>

安全在庫=安全係数×使用量の標準偏差×√(発注リードタイム+発注間隔)

 

安全在庫の計算式に必要な要素である「安全係数」「使用量の標準偏差」「発注リードタイム・発注間隔」の意味は、下記のとおりです。

 

・安全係数

安全係数とは、欠品をどの程度許容できるかによって決まる数字です。例えば「100回受注があったら、そのうち5回の欠品は許容できる」とき、欠品許容率は5%、安全係数は1.65になります。安全在庫を求める計算式にあてはめる際は、欠品許容率は下記の安全係数に置き換えて考えます。

 

■欠品許容率と安全係数

欠品許容率 安全係数
0.1% 3.10
1% 2.33
2% 2.06
5% 1.65
10% 1.29
20% 0.85
30% 0.53

 

この欠品許容率(安全係数)は、各企業で在庫を確保するコストや労力とのバランスを検討し、決定される数字です。欠品の許容率が低いほど安全係数が高くなり、安全在庫も多くなっていきます。

 

・使用量の標準偏差

使用量の標準偏差とは、過去の実績をもとに算出する需要のばらつきです。ばらつきが少なければ使用量の標準偏差は小さくなり、ばらつきが多いほど標準偏差も大きくなります。

使用量の標準偏差は、過去の商品出荷数量や販売数量などをもとに算出しますが、計算方法が複雑であることから、ExcelでSTDEV関数を用いるのがおすすめです。

 

・発注リードタイム・発注間隔

発注リードタイムとは、発注から商品の到着までにかかる期間のことで、発注間隔は発注から次の発注までの日数です。それぞれの日数を足したのが、リードタイムとなります。

例えば、毎週月曜日に発注を行い、木曜日に納品されるサイクルであれば、発注リードタイムは3日、発注間隔は7日です。よって、リードタイムは3日+7日=10日となります。なお、不定期に発注を行う場合の間隔は0日で計算します。

リードタイムについてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。

リードタイムとは?意味や改善方法、適正化の事例をわかりやすく解説

 

安全在庫の計算例

ここまでの解説を踏まえ、安全在庫の計算例を見ていきましょう。下記の条件で、安全在庫を計算します。

 

  • 欠品許容率:5%(安全係数:1.65)
  • 使用量の標準偏差:30個
  • 発注リードタイム:8日
  • 発注間隔:8日

 

この条件を安全在庫の計算式にあてはめると、下記のようになります。

 

1.65×30×√(8+8)=198個

 

このとき、198個の在庫を確保しておけば、欠品率を5%に抑えることが可能です。

 

 

安全在庫と適正在庫の違いとは?

 

安全在庫と適正在庫

 

安全在庫と似た言葉に、「適正在庫」があります。適正在庫とは、欠品を防止するとともに余剰在庫も防ぐための在庫数です。どちらも似た意味を持ちますが、安全在庫が欠品を防ぐための最低限の在庫数であるのに対し、適正在庫は自社の利益を最大化するために設定されます。

仮に安全在庫が「100個」だったとしても、受発注状況に応じて数字は変動するため、在庫数を実際に常に100個にすることは困難です。100個というのは、あくまでも在庫数の下限のみを表します。

一方の適正在庫は、欠品を防ぎ、余剰在庫を抱えないための範囲を示します。適正在庫を求めることで、在庫数を適切にコントロールすることが可能です。

 

適正在庫は、安全在庫の数に一定期間の在庫の必要量を足すことで算出できます。「一定期間の在庫の必要量」は、発注から次の発注までに販売した商品数の半分を目安にするケースと、季節などの変動に応じた特定期間の需要数をもとに算出するケースがあります。商品の特性などに応じて選択してください。

 

関連記事:

不良在庫とは?出さないためのポイントと業務効率化を詳しく解説

 

 

安全在庫を維持するメリット

安全在庫を維持することで、在庫に関するさまざまな課題を解決できます。安全在庫を意識するメリットには、下記のようなものがあります。

 

販売機会の損失を防止できる

安全在庫を常に維持することで、販売機会の損失を一定以下に抑える効果を得ることが可能です。

安全在庫は、事前に欠品許容率を設定した上で算出します。そのため、万が一欠品が起こったとしても、許容率以下に抑えられる可能性が高いといえます。ですから、販売機会の損失を防いで利益を確保することも、品切れをなくして顧客の必要とするタイミングで商品を提供することも可能です。

顧客の信頼を勝ち取るために、安全在庫を維持して品切れを防ぐようにしましょう。

 

在庫量を調整するための基準がわかる

在庫量の下限を示す安全在庫は、在庫量調整の基準になる数字です。在庫量の過不足を確認するにあたっても、安全在庫がひとつの基準になります。

また、利益を最大化するための基準となる適正在庫も、安全在庫をもとに算出します。安全在庫を下限として適正在庫を算出し、その範囲内の在庫量をキープすることで、欠品や余剰在庫のリスクを抑える適切な在庫管理が可能です。

 

キャッシュフローが改善できる

最低限どの程度の在庫をキープすれば良いのかがわかれば、無駄な仕入れを防ぐこともできます。

過度な仕入れはキャッシュフローの悪化を招くもの。安全在庫を計算し、実際の在庫量と比較することで、在庫を持ちすぎている商品があることに気づける可能性もあります。適切な在庫量を保ち、キャッシュフローの適正化を目指してください。

 

 

安全在庫を取り入れる際のポイント

安全在庫は、在庫数の調整に役立つ考え方です。とはいえ、万能ではありません。安全在庫を在庫管理に取り入れる際に注意したいポイントをご紹介します。

 

安全在庫で欠品の可能性をゼロにできるわけではない

安全在庫を算出し、それを活かして在庫管理をしていたとしても、急激なトレンドの変化による需要増加や商品の不具合などによって、欠品が出てしまうことはあります。

安全在庫を維持していても、欠品を完全に防ぐことはできませんし、事前に設定した欠品許容率の範囲内に絶対に収まるというわけではありません。安全在庫を守っていれば大丈夫と思い込まずに、最新の市場の動向をチェックし、状況に合わせて対応することが必要です。

 

安全在庫だけでは余剰在庫は防げない

安全在庫のみを確認し、適正在庫を設定していないと、どの程度の余裕を持っておけば良いかがはっきりしません。安全在庫はあくまでも下限ですから「ある程度の余裕を持たせて在庫をキープしよう」といった考え方では、つい余裕を持ちすぎて余剰在庫が発生する可能性があります。

適正在庫も併せて算出し、在庫管理を行うことをおすすめします。

 

商品によっては安全在庫の考え方は活用できない

季節やトレンドによって需要が大きく変動する商品については、安全在庫の考え方がマッチしない可能性があります。標準偏差があまりに大きい場合は、年間を通して同一の安全在庫を目安にするのではなく、季節ごとの安全在庫を算出するなどの工夫が必要です。扱う商品の特性や過去の実績をもとに、適切な在庫管理を行うことが求められます。

 

リードタイムは変動するので正しいとは限らない

安全在庫を算出するために利用するリードタイムは、状況に応じて変動する可能性があります。自社の発注サイクルが変わることもあれば、取引先の納品までの期間が変更されることもあるでしょう。リードタイムが変われば安全在庫の数も変動しますから、その時々の状況に合わせて計算しなければいけません。

 

 

安全在庫を意識し、物流業務やコストを最適化しよう

安全在庫を算出して維持すれば、欠品を防ぐことにつながります。発注数の基準ができますから、業務効率化にもつながるでしょう。在庫管理を行う際は、安全在庫を意識することが大切です。

 

とはいえ、季節や流行による変動が大きく、商品ごとの安全在庫を算出しにくい業界もあります。また、安全在庫を算出してみたもののイレギュラーが多く、うまく実務に落とし込めないという企業もあるかもしれません。

在庫管理に関するお悩みは、物流専門企業であるプラス ロジスティクスグループまでご相談ください。状況を詳しくヒアリングした上で、それぞれのお客様に最適な物流の在り方をご提案します。

 

プラス ロジスティクスへのお問い合わせはこちらから

 

 

安全在庫に関するよくある質問

Q1_安全在庫とは何ですか?
安全在庫とは、物流倉庫などで欠品を防ぐために最低限確保しておくべき在庫数のことです。商品の需要には波があることから、完全に欠品を防ぐのは困難でしょう。しかし、安全在庫をキープしておくことで、ある程度の欠品回避が可能です。
Q2_安全係数を用いた安全在庫の計算方法は?
ある商品の安全在庫は、計算式を用いることで求めることができます。安全在庫を算出する計算式は、次のとおりです。 <安全在庫の計算式> 安全在庫=安全係数×使用量の標準偏差×√(発注リードタイム+発注間隔)
Q3_安全在庫と適正在庫の違いは?
安全在庫と似た言葉に、「適正在庫」があります。適正在庫とは、欠品を防止するとともに余剰在庫も防ぐための在庫数です。どちらも似た意味を持ちますが、安全在庫が欠品を防ぐための最低限の在庫数であるのに対し、適正在庫は自社の利益を最大化するために設定されます。

RELATED